《MUMEI》 確認忍に向かって手を振ると、忍は玄関に向かった。 「祐也」 靴を履いた忍がまた俺の名を呼んだ。 (今度は何だよ) 「水泳は?」 「休む」 「トイレは?」 「個室だろう…ちゃんと守ってる」 おかげで、皆にはからかわれるし、あいつには心配されるし散々だったが、そこはしっかり守っていた。 「なら、いい。前髪も切るなよ」 「わかってる」 どんなに邪魔でも、先生に怒鳴られても、俺は切らなかった。 「目立つなよ」 「目立ったら、普通じゃないだろ?」 「そうだ。わかってるならいい。 お前は… 旦那様の為に普通に生きる義務があるからな」 「わかってるよ、執事様。 俺が殺したようなもんだからな…」 忍は、俺の言葉には答えなかった。 「報告は忘れるな」 「はいはい」 そして忍は 残った奥様と御子息の世話をするために あの、広い屋敷に帰っていった。 (俺がいた離れは燃やしたって言ってたっけ…) 忍とのやりとりは、いつも疲れる。 俺は、荷物の中から布団だけを取り出して、学生服のまま眠った。 前へ |次へ |
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