《MUMEI》
苦しき身の上
 私はとても暗い中で目をさました。

何も見えぬほど暗い。

やわらかい感触からすれば、ベッドの上だろうか? 
何か温かいものに触れた。グニグニしている。明らかにベッドじゃない。 


 「んー」とそれは声をあげた。私は驚き後ろに飛び退いた! 

 ゴツンという鈍い音がする。私は痛みを堪え、声も出さず我慢した。

 「姫どうなされました!?セシルでございます。」
私はその声にホッとした。
 「セシル。暗すぎでしてよ。灯りをお願い。」

 「ええ。かしこまりました。」というとセシルは灯りを灯した。 

「姫。明日は即位式にございます。心の準備をしておいてください。もう嫌とは言えぬお歳です。あなた様は」

「わかっておる。言われずとも」

 私はセシルから顔を反らした。自分の怒りをセシルに八つ当たりしてしまいそうで恐い。 

 我が一族は代々女帝を継いできた。今更物怖じする訳でもない。
ただ、もっと青春を謳歌したい。それだけなんだ。



 再びセシルを横目で見る。セシルは弱冠20歳にして国の総理。私のお世話もかってでるほどの男。
 私はセシルに気があるのだと思う。彼を見るだけで胸が高鳴る。

 10歳の時も好きな男の子がいたけど、それとは違う。泣きたくなるほど苦しい。
だが、私はそれを彼には言わない。
いや、言えないのだ。

 セシルは昔から私の側にいる。言わば家族のようなもの。
いったん家族という関係ができてしまうとなかなか次に進歩するというのは難しい。 



 私はただ黙りこくっていた。セシルはそれをただ遠くから見ている。

ちらっと見ると薄ら微笑んでいるのが見えた。

 「なんだ?何が可笑しい?」

 「失礼ながら、今までお世話をさせていただいてきた姫様が、国の女帝になるのが嬉しいんですよ」

なんでそんな事いうの?

母上が死んで、また私も毒殺されるかもしれないじゃない!! 
 そんなものに私はなりたくない!! 

「嫌よ!!」
私はとうとう泣き出した。 
「姫。どうか泣かないで」といいセシルは私を抱きしめたのだった…。

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