《MUMEI》
ピンポンサンタ
毎年、〈ピンポンサンタ〉は、夏海のもとに、やってくる。それも、幼稚園を卒園するまで。
小学校にあがった、クリスマス、また、〈ピンポンサンタ〉を、 待っていた。「今年は、サンタに、 会うぞ」
両親が止めるのも聞かずに、二階から、星が満天の黒い空を眺める。     〈きっと、くる、きっと、くる、きっと、空から、トナカイに乗ってやってくる……〉
そう、静かに待っていた。窓の上は、夜空、窓の下は玄関。
 (玄関に人影が)
〈だめだよ、今、誰か来ちゃ、サンタが降りてこれないよ〉
玄関に来た人影は、夏海の気持ちを、知らずに、玄関ベルを鳴らす。
  ピンポン
また、いつもの、様に、母が、出てちょうだいと、二階の夏海に言った。   その、人影は、二軒隣の家に入っていった。
それを、しっかり確認して、玄関に出るとプレゼントが。中身は、カーディガンだった。
「おとうさん、サンタなんかいないよ、サンタは、チビっちのおばちゃんじゃん!」
「ばれたか」
「あらら」
サンタだと、思っていたのは、二軒隣に、秋田犬のチビを飼っている、ご近所さんだった。夏海は、おばちゃんの事を、チビのおばちゃんと呼んでいたのだ。 母が説明してくれた。  「実はね、お父さんと相談して、毎年、枕元じゃ、おもしろくないからって、
チビのおばさんに、プレゼントを託して、7時に、ベル鳴らして、置いてって、と、お願いしてたの。ばれちゃったわね」
夏海の母は、悪怯れず、来年からは、普通に渡せると、気が楽になったようだ。そこから、夏海の葛藤だ、あんなに信じていたのに、信じきっていたのに。  この、ショックは、給食の大好物のソフト麺を袋から出すとき、勢いあまって、床に落ちて、それを拾おうとして、ひじが当たり、麺につけるための、スープをひっくりかえし、はんべそを、かいた以来のショックだった。
もう、クリスマスなんて、大嫌い!サンタが嫌い!

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