《MUMEI》
第二十七話:血
 人を斬ったのは初めての経験だった。
 いつもはここまで死闘を演じることもなかったから。
 だけど今ここで戦わなければならないと幼心に思った。
 大切な人が全て消えてしまうと思ったから・・・・

「義臣・・・・」

 尊氏は快を見てそうつぶやいた。
 もちろん義臣にはまだ遠く及ぶ戦闘能力ではない。
 さっきの攻撃で手を休めるほど義臣は甘くない。
 しかし、目の前にいる八歳の少年からは義臣と同じ気迫を感じる。
 いや、それ以上か・・・・

「快だ・・・・」
「ん?」

 翡翠と白真に強力な結界をはり、
 そして叫んだ!

「俺は篠原快だ! 父さんと一緒にすんな!」

 快の攻撃を氷堂は紙一重でよけ、すぐに切り返すが、
 快の体が小さい分だけ、攻撃があたる面積が少ない。
 その小さな体が最大の防御になっている。

「召喚! 切裂!」

 死神が再度登場する!
 本来なら侵入のために使う召喚術も、
 一つ使い方を変えれば殺人の魔法になる。
 それを快はためらうこともなくやってのけた。

「ちっ!」

 死神の斧を簡単に受け止め、
 その姿を一瞬のうちに消し去る。
 しかし、快はその一瞬で氷堂の懐に入り込んでいた。

「終わりだ」

 腹部に刺さる剣が血を滴らせる。
 それを見ていた翡翠と白真は、喜びよりも恐怖を感じていた。

「白ちゃん・・・・快ちゃんじゃないよ・・・・」

 いつも冷静沈着、誰よりも仲間思い。
 そして翡翠をからかうあの表情が全て消えてしまいそうだ。

「翡翠、快ちゃんを止めてくる」
「白ちゃん! ダメだよ!」

 翡翠は白真の腕を力いっぱい握り締めた。
 出ていけば白真が殺される!

「いいんだ! 快ちゃんがこのままじゃだめになる!」

 そして白真は結界を破り、外に飛び出した瞬間、

「白! 出てくんな!!」

 その声は遅かった。声もないまま、白真は血を噴出して倒れたのである。

「いやああああ!!! 白ちゃん!!!」

 翡翠もその場から出ようとしたが、快がそれをさせない!

「出るな! 外は全て剣だと思え!
 出た瞬間に空気の刃に刺されて死ぬぞ!」

 それが仁や智子がやられた理由だった。
 尊氏が周囲全てを空気の刃に変えたのである。
 快はそれを押し返す力を発しながら戦っていた。
 だが、冷静さを失った快は、そのことを二人に伝えずに戦い始めたのである。

「そのとおり。だが・・・・」

 快が振り返ったとき、快の胸は斬り付け

「快!!!」

 結界は張っていてもかかってきた血。
 それは快のもの。

「気を抜いても同じことだ。お前は死ぬ」

 ゆっくり快は倒れていく。
 それは分身でもなく本体・・・・

「これで終わりだ。残念だったな、篠原快」

 笑みを浮かべ、剣についた血を振り払う。だが、それが間違いだった。

「・・・・・なっ!!」

 体の自由が利かない。感覚がない。
 声を発することが出来ない!

「・・・・・あっ!!」

 涙を流した目に映った女がいた。

「夢乃さん!!」

 救援は現れたのだった。

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