《MUMEI》
個室で対面
「せ、先生!トイレ行ってきていいですか?」


…とにかく、この場を離れようと思った。


「何だ田中、美人の隣で緊張したのか?」


信楽焼きのたぬきのような顔と体型をした担任が、豪快に笑いながら言った。


露骨に笑う男子生徒と、クスクス控え目に笑う女子生徒。


(ムカつく)


「そ、そうなんです。すみません、ちょっと行ってきます」


拳を握り締めながら、俺は教室を後にした。


(せっかくだから、一応行くか)


この時間だから、誰もいないだろうが、俺は忍との約束を守り…


男子トイレの個室のドアを開けた。


「…すみません」


…中に人が入っていた。


しかも、二人。


(二年生、…先輩だ)


上履きのラインで確認した俺は、下級生らしく、もう一度頭を下げた。


「いいよ、もう終わったから」


やや細身の男が言うように、二人はきちんと制服を着ていた。


「どうぞ」


「…どうも」


譲ってもらった個室に入って用を足した。


…小さい方だから、すぐに終わった。


(つーか、さっきの先輩、高山に似てるような…? まさかな〜)


あの真面目な高山のいとこがホモなはずはないと思い込んだ。

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