《MUMEI》
仲村祐(ひろ)
「お前、何組?」


…腕を掴まれた。


ちゃんと洗ったか、ものすごく、気になる手で。


「…」


「普通は、先輩の質問には答えるもんだぞ」


笑顔は酷く爽やかだが…


掴まれた部分が痛かった。

(見た目より、力あるな)


普通の握力では無かった。

「五組です」


「志貴と一緒か。名前は?」


『志貴』


名前で呼ぶということは、間違いなく、この男が津田さんの…高山のいとこだ。

(こんなホモのどこが…)


「痛っ!」


「質問に答えろよ」


「た、田中だよ、田中祐也」


「田中、祐也?」


男が驚いて手を離した。


(危なかった…)


もう少し、掴まれていたら、反撃してしまうところだった。


『可愛い祐也。体に、これ以外の傷を作ってはいけないよ』


旦那様が亡くなっても、俺の中で旦那様の命令は絶対だったから。


たとえこの男の握力が普通以上でも、勝つ自信はあった。


「祐也って…祐希と一文字違いの?」


「? 何で、屋代さんの名前…」


すると男が、信じられない自己紹介をした。


「俺、仲村祐。祐希さんやお前の祐の字で、祐って読むんだ。父さんから聞いてるよ。よろしくな」

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