《MUMEI》

窓へと近付いて来た。
長い指が硝子を叩く。

至近距離で窓が一瞬、白く曇る。

唇の形が俺の名前を呼んだ。

動いた指が逆さ文字の“開けて”を浮き出す。

開錠するのに躊躇われたがいつの間にか窓に近付いていた。
ヒューヒューと風が硝子を揺らす。

「冷えた……。」

小刻みに震えている。

「窓からいつも入っていたな。」

残り香がしていたことを知っている。

「……家が新築になってて驚いた。前の家は相変わらずだけどな。俺の部屋の窓の立て付けの悪さとか。」

国雄の金髪が雪の反射で透ける。

「お前もあまり変わらないな。」

相変わらずの色香が漂う。

「……そっちは窶れた。」

確かに、柔道をやっていた頃の体力は無い。
体重も落ちた。

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