《MUMEI》

「ピー!!」


試合終了のホイッスルが鳴った。


スコアは36対8。


審判の手が、勝利チーム、平松学園を指した。


「ありがとうございました!!」


体育館を後にする選手たち。


「余裕で平学か。」


「番狂わせはなかったな。」


「さて、僕たちの番だぞ。」


試合前のアップが始まる。


ポジションシュートをやらせていたが、何故かキーパーは村木ではない。


翔太だ。


翔太はクロに頼まれ、キーパーの代役をしている。


では村木は?


その姿はベンチにあった。


「いいか?よく見とけよ。」


「はい。」


ベンチに座るクロと村木。


視線の先は、


東明高校のアップの姿だった。


これは…


今日この会場に姿のない恭介の指示であった。





「いいかクロ?


試合前のアップの時間、村木に相手の様子を見せるんだ。


相手のシュートの癖を短い時間で探るのは、難しいかもしれないけど、


優秀なキーパーならできる。


俺とか。


たぶん、あいつの…


村木のセンスならそれが出来るはずだ。」





恭介のアドバイス通り、


村木には相手の動きを観察させていたのだ。


そしてそれは、


クロも同時に行っていた。


「…」


(東明は、決して強豪じゃない。僕たちも十分勝てるはずだ…)


未だに赤高を強豪だと思い込んでいる他校。


この試合を大差で勝たなければ、


この先不利になる。


勘違いしている会場を信じ込ませる為にも、


全力で挑まなければならない。


…見えないプレッシャーが、


クロにだけのし掛かる。

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