《MUMEI》

◆◇◆

 狐叉から彩貴とのやり取りの話を聞いた夜桜は、思わず苦笑した。

「そうか‥彼らしいな」

 本音をなかなか表に出さない上、笑う事など滅多にない。

 そんな彼が妖である狐叉に笑顔をみせたとはとても信じ難い事ではあった。

 だが、それが彩貴の本当の姿なのではないか、と思う。

 時折垣間見せる優しい表情や愛しむような眼差しは、本当に彼の心の現れなのだろう。

 昔の、夜桜が幼子であった頃の彩貴は、もっと頑なであったような気がしていた。

 それは無論、夜桜の為を思っての事であったに違いないのだが、その時の夜桜はまだその言動の意味を知らずにいたのだった。

◆◇◆

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