《MUMEI》
四月二十五日 土曜
 今日の夕方になってバイクが入ってくる音がした。りんクンだ!キッチンからそっと覗くと、あのバイクスーツのりんクンがヘルメットを取るところだった。
 乱れた前髪が目や頬に掛かっている。汗で長い髪がカールしている。一途に何かを考えているのか視線は遠くを見ている。
 長い首と撫で肩。きれいに反った背中の為に大きいお尻が突き出ている。ぴっちりとスーツに纏われたかもしかのような脚。陰部が心持ち膨らんでいる。
 女のわたいでもその色気にぞっとした。

 もしや、角南クンは我慢出来ずに手を出したんじゃ・・・りんクンは逃げるようにして出て行った。泣きながら。きっと、友達として信頼していた角南クンに裏切られたと思ったのね。
 ・・・でも、そうだとしたら、またここへ戻って来る勇気があるだろうか?
 やっと決心したように上をきっと向いて、りんクンは二階に上がっていった。手にはコンビニの袋を持っていた。

 今日は旦那と夕食をするために料理をした。忙しい中で外の物音に気づいてキッチンの窓から覗くと、りんクンがTシャツ姿でまたゴミを出していた。今度は下に短パンを履いていたが。
 ああ、やっぱり勘違いだったのね。
 優しいりんクンは心配して角南クンの世話をしに来たのだわ。・・・でも仲が良いのは事実。
 あの仲間で誰か病気になるとりんクンは介抱にいくのかしら。そしてその夜、いっぱい慰めて上げたり・・・きゃーっ!

 Hクンなんか見るからに好きそうだから、
「おい、りん!ここだここだ!」
 Hクンは掛け布団を持ち上げてりんを呼ぶ。
 りんは恐る恐るHの横に身を横たえる。
・・・
 Hクンはりんに盛んにしゃべりながらそれに疲れると寝てしまった。本当はやっぱり優しいのだ。
 次の夜は角南クンの番だ。角南クンは古武士みたいに腕を組んで床に胡座をかいている。りんクンが両手を突いて、
「よろしくお願いします・・・」
「うむ」

 ご飯と食べながら時々叫ぶわたいを、旦那は恐怖の目で見ていたわ。

 真夜中になって趣味の絵を書き殴ってから二階の寝床に行った。
 さあて寝ようとしたとき、小さな叫びを聞いた!
 えっ!
 わたいの耳はこの時ばかりと研ぎ澄まされた!足下の方向の壁を隔てた角南クンの部屋から確かに声が!わたいはむくりと起きて、腹這いになりその壁へ匍匐(ほふく)前進!
 壁にぴたと耳を付けた!これって犯罪?でももう止まらない!占いでわたいの前世は『忍者』って出てたの!ルカが不思議そうにわたいのやることを見ていた。わたいはルカに向かって口に指を一本付けてしーっと言った。にゃんにゃ?

(あ・・・大介!)
(痛い?)
(う・・・ん、大丈夫・・・今日は優しいから・・・)

 その最中!わたいの頭にそれまでにない妄想力が吹き荒れたわ。

(今度は・・・俺も満足させてくれるんだろ?でも今日だけだよ!)
(・・・今日だけ?俺の恋人になるの嫌か?)
(・・・どうせすぐ二人とも飽きるよ。その時までならいいよ)
(残念でした・・・じゃ一生恋人だ!)
(やだ!)
(じゃ、逃げて見ろ!)
(あ・・・ん・・・髪・・・掴むの反則!おまいの大きいから抜けないし)
(感じる?)
(知らない!)
(りん・・・)
(あう!)
 二人の激しい息が段々短くなる。打ちつける音も聞こえてきた。
(・・・大介・・・俺もう・・・出ちゃう!)
(一緒に行こう!)
(ああーっ)

 その夜のわたいはなんという幸福感に浸ったことか。
 若い二人の最初の愛の交合の時に立ち会ったなんて、一生のうちにめったにあることじゃない・・・
 これだから管理人はやめられない。ひひ。

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