《MUMEI》

「あ……有難うございます。」

林太郎の礼に木乃伊男は何も云わずに立ち去った。

「受け取っては呉れたみたいだよ。」

誉が手を差し出すので林太郎はつい、手を預けてしまった。

「私の馬に、反射光が注がれたようです。」

馬は臆病だから、突然の事に驚き先刻の惨事になったのだ。

「狙われたのか……心当たりは。」


「いゝえ、解りません。」

林太郎を狙って何の特に為るだろうか。
思考を巡らした。



自分の素性を識る者だろうか。
今、八尋との血縁を識っているのは実朝だろう。
だからと云って実朝を疑うのは難しい、久々原姓で事業に失敗した際、真造は北王子からの援助に猛反対をした経緯が有る。
二人の共謀の線は薄い。

別の理由が在っての事かもしれない。


「おぅい、大丈夫だったかい。」

実朝や、野次馬の客が駆け寄って来る。

「馬の躾が悪かったようだね。それとも、突然の訪問者達に馬も気が立ってしまったかな。」

誉が大袈裟に周りに触れて回ることで林太郎が注目されることは避けれた。
実朝が冷汗を流していたことが林太郎には彼が悪目立ちをするなと云っているようであった。

「さあ、皆様、こんな処に立ち尽くしている暇は有りませんよ。休暇は短いですからね。」

実朝は平静を取り繕い、再び室内へと先導した。
彼の切り替えしの早さは評価出来るが演技力に乏しかった。

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