《MUMEI》
危機感
「……びっくりした」

少女の姿を見送って羽田は言った。

「なんか、初めてこっちの人と話した。あの子には津山さんは見えていないのね」

「みたいですね。やっぱり変わったのは先生だけということですね」

凜は言いながら小部屋へと歩き出した。
羽田もそれに続く。

「それにしても……」

部屋に戻り、床に座りながら羽田はため息をつく。

「これからどうしたら?」

腕時計に目をやると、いつの間にか夜になっていた。
ここには窓がないため、気付かなかったのだ。

「今日、何曜日だっけ?」

羽田は凜の顔を見る。

「金曜日ですよ」

「よかった」

「学校、明日と明後日休みですからね。けど、月曜までになんとかしないと、先生は無断欠勤。そのうち行方不明で捜索願い出されてしまいますね」

「え、それ困るじゃない。見つからないままだと、そのうち死んだことにされちゃうんでしょ? なんとかしないと……!」

ようやく危機感が沸いてきたらしい羽田はバッと立ち上がる。
そして凜に「ほら、津山さんも立って」と促す。

「どうするんですか?」

仕方なくといった様子で凜は立ち上がりながら、羽田に聞く。

「さっき、逃げてきた道を引き返すの」

「なぜ?」

「何かわかるかもしれないでしょ」

言いながら羽田はチョロチョロと動き回っていたテラを捕まえると肩に乗せた。
そしてそのまま小部屋を出る。

「先生、ちょっと待ってくださいよ」

凜の声も聞こえない振りで羽田は広場の出口へと向かう。

「外、危ないと思うんですけど……」

凜はため息をつき、仕方なく後に続いた。

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