《MUMEI》

『…ももた。
後悔してる?…あの日の事を。』




『…あぁ。』




ももたは小さく頷いた。




『…そうだよね。』




私は、そう言って足早に店を出る。




家に帰るとサキさんが、ご飯を作って待っていてくれていた…。




『…サキさん。
ごめんなさい……。
ももた…説得出来なかった。何も出来なかった…。』




溢れ出る涙が止まらなくて、頬をつたう涙を拭いきれなかった…。




『…咲良さん。
泣かんとって…。
ゴメンはコッチや…。
嫌な思いさせてしもて
ホンマごめんなさい…。』




サキさんも、涙ながらに言った…。




それからは、お互い何も言葉を交わさなかった…。




翌朝、目を覚ますと…
サキさんはいなかった…。




テーブルには朝食の支度と置き手紙…




┌─────────┐
│咲良さんへ。   │
│何も言わずに帰って│
│ごめんなさい。  │
│本当にお世話になり│
│ました。  サキ │
└─────────┘




その短い文章から、サキさんの辛い気持ちが伝わってくるような気がした…。




『…ももた。
サキさん…今日、大阪に帰っちゃったよ……。』




『…そうか。』




『もう、サキさんとは会わないの…?』




『…そやな。』




『ねぇ?…何で?
サキさんに本当のことを言わないのは、大切に思ってるからなんでしょ?
…傷つけたくないからなんでしょ?
…だったら、これからも恋人としてサキさんを大切にすればいいじゃない!
あの日の事を後悔してるなら、その分…サキさんを愛してあげて…。
…お願いだよ…ももた。』




私に背を向けたままの、ももたは少し肩が震えていた…。




『…咲良。……俺
ちょっと時間が欲しい。
…今でもサキが大切や。
こっちで店やって落ち着いたら、プロポーズするつもりやった…。
サキも俺の夢を応援してくれてたから…。
そやから…
そのつもりでおったから、バイト掛け持ちして頭下げまくって頑張ってこれた。…夢が叶った。
サキには、感謝してる。』



『…だったら……。』




『ちゃうねんっ!
あの日…俺の中に…気持ちが無かったら、こんなに悩まへん…。
俺かて、学生の時は何回か浮気してしもて、修羅場みたいなんになったこともあったで…。
そやけどな…
今回のは、そんな軽い感じとは違ってん…。
泣き喚いてるお前見て…
俺に頼み込んでるお前見て…気持ちが揺らいだんや。“咲良を守りたい。”
…あの時、本気でそう思った…。
サキの悲しむ顔も浮かばへんかった…。
その後…お前の彼氏と会った時も、そいつの事を“憎い”と思ってしもた。
咲良をこんなに悩ませやがって…ってな。
そやから、サキに“別れる”って言うたんや…。
一時的な感情やったとしても、あの時の俺は“本気”やった…。
サイテーやろ…?
サキが会いに来て…
“別れたない!”って言われて、……“俺もやっぱりサキが一番大切や”って気付いた…。
そんな虫のいい話ない…。俺、最悪過ぎや…。』




『ももたが私を…?』




思いもしなかった言葉に驚いた…。
あの時のももたは、
私に同情しているのだと思ってたから…。
あの日…
ももたは私を
愛してくれてた!?

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