《MUMEI》
六月四日 土曜
 わたいは帰ってきた旦那に起こされた。朝ご飯を食べさせると旦那は寝てしまった。わたいは欠伸をしながら庭で水を撒きはじめた。
 するとバイクが駐輪場に入ってきた。
 真っ赤なバイススーツを着た子がバイクを停めると、ヘルメットを脱いでわたいの所に来た。
 な・・・なんとりんクンとはまた違った美形!細身の身体に長い黒髪、エキゾチックな眼差し。口の端が切れ上がっていつも微笑しているような表情。なんでこんなきれいな男の子が二人も現れるの!
「あのー、三浦荘ってここでしょうか?」
 わたいはびっくりして頷いた。
「そ・・・そうだけど」
「やっと探し当てた!角南大介さんってここに下宿しているんですよね?」
「・・・あ、角南クンね・・・201だわ」
「有り難う御座います」
 赤の君はぺこと頭を下げると、バイクの後ろからバンドに巻いた数冊の本を出して二階に上がって行った。
 来た!
 わたいの感は当たるんよ!
 わたいは忍者のように階段の下に移動した!

 赤の君がドアをノックすると角南クンがドアを開けたようだ!
「あっ!大介さん!」
 角南クン、ピンチ!
「か、薫君!な、なにしに・・来たんだ?」
「やっぱり言われた本読んだけど、よくわかんないんだ。教えて貰おうと・・・」
 ちょっと会話に間が開いた。
「あ・・・誰か居たんだ・・・お友達?」
 りんクンの声。
「そう、僕は大介の『おともだち』だよ!」
「ふーん、噂には聞いてたけどほんとだったんだ・・・」
 彼らは剥き出しのライバル心で言葉を交わした!凄い!男の子同士の三角関係って!きゃーっ!
 わたいははらはらして聞いていたが、りんクンが足音を荒げて階段を下りてきた!わたいは階段の下の奥まったところに箒を持って潜んだ。
 りんクンの横顔は怒り狂った野生の豹の様だったわ。美しいけど近寄ると鋭い爪で引き裂かれそう!
 彼はTシャツ姿のままバイクに飛び乗ると、エンジンを吹かして前輪を上げて外に走り出た。凄い!映画で見たけど本当に出来る人がいるのね!
 角南クンがばたばたと後を追って来たけどもう遅し!呆然とりんクンの走り去った方向を見ていた。
 赤の君はそんな角南クンを見ながら自分のバイクに乗るとやはり急発進で出て行った。あ〜あ、角南クン、どうする?

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