《MUMEI》
第三十一話:戦火
「失礼します」

 ブラッド本社社長室。
 相変わらず暗い部屋に氷堂尊氏の姿はあった。
 しかし、何の反応も見せない。

「本日未明、TEAMがこちらに向けてバスターを派遣。
 人数は四名、援軍の可能性は低いとのことです」

 ブラッドの社員はそれだけ告げて部屋を後にした。

「・・・・篠原快か」

 僅かばかり口元が吊り上った。


「やっぱりブラッドは遠いな」

 屋根の上を走りながら白真は言う。
 もちろん時空魔法で飛んでいけばいいのだが、
 それでは魔力の無駄遣いになってしまう。
 氷堂尊氏と戦うためには少しの力も惜しいのだ。

「仕方ないだろう。俺達が昔ブラッド本社を壊すきっかけを作ったんだ。
 なにより、あそこまで大破した場所を使うほど貧乏でもないだろうし」

 快は冷静な声で答えた。

 八年前、TEAMの近くにあったブラッド本社は、
 建物と土地がほぼ使い物にならなくなっていた。
 掃除屋としてはそんな場所で商いをする訳にもいかないのだ。

「だけど、造りはほとんど変わってなかったな。 同じような侵入方法でいけそうだし」

 幸か不幸か、ブラッドの本社そのものはそう変わっていなかった。
 事前に入手していた本社の見取り図も、
 それほど頭に叩き込む必要もなかったほどにだ。

「おい、白。あまり油断するなよ。
 うちの馬鹿親父でさえ戦闘スキルは落ちちゃいないんだ。
 ブラッドの幹部達ならその辺の鍛錬は怠ってるわけがないからな」

 快はそう告げるが、白真は勝気な声で答えた。

「大丈夫だよ、快ちゃん。
 なんだか今回は負ける気がしないんだ。
 だから絶対勝てるんだよ」

 決して根拠があるわけではない。
 しかし、それは誰もが感じていたことだった。
 ブラッドの幹部達には悪夢を見せられた修と翔でもだ。

「そうか、だったら一気に飛ばすぞ」

 四人はさらにペースを上げた。


 その頃、TEAM本社でも一つの動きがあった。

「夢乃さん、そろそろ時間だ」
「はい、社長。お任せください」

 夢乃はきりっとした声で答えた。
 そして彼女が見下ろしているのはブラッド本社。
 彼女の隊には氷堂仁と智子の姿もあった。

「俺達も援護に回る時代がやってきたんですね」

 氷堂は微笑んで言う。
 あの小さかった快達を思い出しながら・・・・

「そうね。だけどあの子達は今や重要な戦力だもの。
 私達以上にいい仕事をしてくれるわ」

 夢乃はにっこり笑う。
 そして再びブラッド本社を見下ろすと、一気に凛とした声に変わった。

「快チームを援護する!
 侵入経路確保、および救護活動に我々は当たる!
 幹部各位には一切手出し無用! 以上だ!」

 その命令とともに、ブラッド本社に戦火が上がった。

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