《MUMEI》
六月十七日 金曜
今日で二週間だね。りんクン、ほんとに角南クンに愛想を尽かせたのかしら。
角南クン、このごろ達観したようにぼーっとして出かける。今日は久しぶりに喫茶店にみんなと集まると言ってたな。
昼過ぎから雨が降り出した。夕方、雷が鳴り出した。夜半過ぎても降り止まない。
雨の音の中、だんだんと階段を急いで上がる音。鍵を開けてばたんとドアを閉めた。角南クンだな。傘持って行かなかったんだ。
紅茶を入れて画帳に向かおうとした時、また母屋の前をばしゃばしゃと水たまりを駆け抜ける足音がした。他の部屋の連中は全てもう帰ってるはずだ。
来た!
私は椅子から反射的に立ち上がった!
階段の前で立ち止まってからゆっくりと登って行く気配!
間違いない!りんクンだ!
わたいは静かにキッチンの窓を開けて階段を覗いた。ずぶ濡れになったりんクンが手すりを掴んで階段の中頃で立ち止まっている!雨が容赦なくりんクンに降りかかり、所構わず水しぶきを上げている。稲妻がりんクンの身体を浮き立たせた。
りんクンはジーパンに同じ生地の上着を着ていた。風と雨で髪は乱れ、怒りに狂った凄まじく美しい阿修羅のようだ!階段の上の角南クンの部屋をじっと睨んでいる。迷っているのか?
・・・しばらく決心が付かなかった様だったが、やがてゆっくりと登っていった!
わたいは焦って蹴躓かないように二階に上がり定位置に就いた。どきどきしながら壁に耳を付けた。もうりんクンは合い鍵で中に入ってるはずだ。
まだ角南クンは気付いてないのだろうか、英語の下手な歌が聞こえる。声が低いのでこんな日はよく聞こえる。ガス湯沸かし器の音が聞こえたのでシャワーに入っているのだろう。
冷蔵庫のドアを閉める音かばたんばたんという音・・・
(りん!)
気付いた!
(薫を抱いたの?)
その言葉が終わるか終わらないかの瞬間に稲妻が轟いた。わたいは思わず首を竦めて悲鳴を上げそうになった!
低い声が言った。
(ここにいるといつかみたいにまた乱暴するかも知れないぜ。俺は・・・変態のホモだからな。帰れよ)
・・・角南クン!それってないよ!りんクンを失いたいの!
(どうすればいい・・・?)
えっ!りんクン・・・
(・・・どうすればまた俺を抱いてくれる?)
・・・ああ・・・りんクン、君はやっぱり角南クンを心から・・・
わたいの目から涙が落ちた。
こいつら、本物だ。
追い求め、離れ、また惹きつけられる・・・永遠の追いごっこ・・・
(いやだ!俺だけしか抱いちゃ!・・・だから・・・なんでもする!)
・・・今度はりんクンの追う番だ。
今宵は角南クンの勝ち・・・角南クンはまた調子に乗ってりんクンを蹂躙するだろう。でもキミの苦悩はこれからだよ!本当の愛の苦痛は!求める方が辛いんだからね!
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