《MUMEI》
街並み
「うわぁ!きれいだね。」
珍しく興奮気味の葵を見て、啓太も嬉しそうに笑う。
「俺のサボりスポット。悪くないだろ?」
風で巻き上がる髪を押さえる葵を見ながら、啓太がタバコに火を点ける。
「もっと早く教えてよ。サボり仲間なんだからさぁ。」
葵がふてくされて言うのと同時に携帯が鳴った。
「彼氏か?」
すかさず啓太が訊く。
「違うって。」
即答で返す。
ポケットから携帯を出すと、仁田からの電話だった。
「もしもし。」
「葵か?今どこだ!?」
仁田の声が焦っている。
「学校に決まってるじゃないですか!」
「昨日殺した奴の所属のヤクザが犯人探しを始めたぞ!」
「そんなのいつもの事じゃないですか。」
葵と仁田の会話を、退屈そうに啓太が眺めている。
「今回はそんな簡単な奴じゃない。お前を探してる。」
その瞬間、葵の体を寒気が走った。
「はめられたって事?」
恐る恐る訊く。
「そうだ。だからお前の仕事はしばらく休業だ。後は俺が片付ける。」
仁田の声が、いつもより重たい。
「手伝いますよ。というより、私も一緒に片付けます。」
「わかった。とりあえず、学校終わったら連絡くれ。」
そう言うと、仁田は一方的に電話を切った。
「なんだって?」
啓太が、それとなく尋ねる。
「なんか狙われてるみたい。」
葵が無理して作った笑顔で言うと、次の瞬間、啓太に抱きしめられていた。
「なんかよく分かんないけど、俺達がついてるからな!困った時は、みんなが力になるから。」
啓太の腕が火照っていて熱い。
「うん…」
葵は啓太の腕の中で、小刻みに震えた。
更に啓太が強く抱きしめる。
「啓太、苦しいです。」
「あ、ごめん…。」
そう言って、啓太が葵を解放すると、下から見上げる葵の小ささを、改めて実感した。

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