《MUMEI》
二十九夜 夢と妖しき刻印
◆◇◆

 この頃、夜桜は毎夜妙な夢を見るようになった。

 細く黒い影のようなものが、きつく手首を締め付けてくる。

 振りほどこうとしても、簡単には離れない。

 やっとの事でそれを振り払うと、いつもそこで目が覚めるのだった。

 妖だろうか。

 それとも‥。

「姫ー」

「‥?」

「怖い夢でも見たかー?」

 すると狐叉も同じような事を問い掛けたので、夜桜は驚いた。

 妖はそれとなく人の心が分かるらしいのだが、ぴたりと言い当てられた時にはやはり驚かずにはいられない。

 まだ、動悸がしている。

 庭へ出ると、何の変哲もない景色がそこにある。

 夜桜は息をつく。

 その刹那、ぞわり、とざらついた風が姫君の頬を撫ぜた。

◆◇◆

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