《MUMEI》

    ガサガサ……



物音がした。

七生が猛ダッシュで消えてゆく。


「ちょっ……」

置いて行かれた……!


なんだ、
なんだ、なんだなんだ?!

……や、やり逃げ?!

気が付けば七生もいなくなったが、物音も無くなっていた。





取り敢えず、コインシャワーに行き、混乱した頭を流して整頓した。
所々に七生の指の痕が残っていたりして、現実の事だったのだと思い知らされる。

上がってから、タオルを忘れていた事に気付く。
寒気が振り返した。
力無くその辺の電柱を支えにしゃがみ込む。

七生がまだ内股に居るような感覚に身震いした。



「先輩?」

びくついてしまった。
安西だ。

「――――あれ、どうした?」

「こっちの台詞ですよ。びちゃびちゃじゃないですか。」

シャワーでずぶ濡れの俺を心配してくれている。
安西は飲み物を買いに行く途中だったようだ。

本当ならその気遣いは七生にされたかった。

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