《MUMEI》
天の助けと思いきや
(まずいな…)


普通は、答えなければいけない。


普通は、キングには逆らえないし、逆らわない。


「前のとこは、水もれが酷くてさ〜」


「そうは思えなかったけど」


「風呂場が酷かったんだ」

「…そうか」


高山は、前の俺のアパートの風呂に入った事は無いから、一応納得した。


「…で。今はどこに?」


(何でお前に言わなきゃいけないんだよ)


高山から逃げる為に、引越したのに。


「携帯も、変えたよね」


「トイレに落としちゃって…」


「新しいのは?」


「あ〜、今日持って無いんだ」


これは、嘘。


俺の携帯は、電源を切った状態で、バックに入っていた。


「「…」」


気まずい空気が流れた。


その時。


「あ!いたいた!お〜い!祐…!?」


(助かった)


「何だ? 守」


俺は、横断歩道を渡った所で固まっている守に駆け寄った。


「お、おい。お前、…あ、あれ、キング…だろ?」


「同級生だったんだけど、何か用事があったみたいで、…本当に、偶然会ったんだ」


俺は力一杯偶然を強調した。


「そ、そっか。でさ…お前、祐希さんと仲村さんの知り合いって本当か!?」

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