《MUMEI》

“時間が欲しい。”
と言った、ももた…。
私には、もう見守る事さえ出来ないの…?




私達は、ぎくしゃくしたまま、月日を過ごした…。




私は今までと変わらず平日の夜は吉沢さんと過ごし…週末には、奥さんの元へ送り出した。
その後は、ももたと“町内会の祭り”の準備…と、時間に追われた…。




祭りが、来週に迫った金曜日の夜…。




『…咲良。ちょっといいか?……こっちきて!』




吉沢さんに呼ばれて、夕食の支度の手を止めた。




『…咲良。…明日から
家の嫁…出産の為に入院することになった…。
来週…予定日なんだ。』




『…そっか。ついに…
お父さんになるんだね。
…だったら、今日が私達の“最後の晩餐”だ!
あぁ〜もっとご馳走にすれば良かった〜!
気が利かないな〜私。』




気丈に振る舞う私を、強く抱きしめた吉沢さん。




『…咲良。俺たち…
本当に終わりなのか?』




『当たり前じゃん。
これからは職場の同僚!』



涙が溢れる…。




『…俺、
嫁と別れようかな?』




……………
吉沢さんの言葉に思わず、手が出た。




パチンッ!!




『…ふざけないで!
そんな事、本気で言ってるんなら今すぐ出てって!!約束したでしょ…。
私達…
子供が産まれるまでって。吉沢さんは、これから最高のパパになるの!
最高の旦那さんに戻るの!…だから、私達は別れるの。』




そう宣言した私を、
説得するでもなく、納得するでもなく、ただ黙ってキスをした…吉沢さん。




結局…私達は不器用なまま恋を終わらせることになった。




自分の恋が終わる時…
散々泣いた私が、放心状態の中で考えていたのは
何故か、ももたとサキさんの事だった…。




“何とか二人を仲直りさせなきゃ!!”




翌日から、私の作戦は始まった…。




『ももた!!
あのね〜サキさんが家に泊まっていった時、忘れ物しちゃってたの〜。
宅配で送ってあげたいから“サキさんの住所”教えて〜!!』




『は〜?何やねん急に!
忘れ物って何や!?』




『何でもいいじゃん別に!!早く教えてよ!!』




『う〜ん…。』




ももたは、渋々紙に住所を書いてくれた。
何か疑ってるみたいだったから私も早々と帰る。




実はさっき…仕事終わった後、明日から有給休暇が、もらえるように手続きをしてきた…。




もちろん大阪のサキさんに会いに行くため…。




“ももたは今でもサキさんを愛している。”
…どうしても伝えなくてはいけないと思った。
…そして、あの日の事も私の口からサキさんに言う。それでも、サキさんがももたを選ぶと信じて…。




“よしっ!やるぞ!!”
自分に喝を入れ、大阪行きの新幹線に乗り込む。




『何これ〜!?』




新大阪に着き、ド派手な町並みに圧倒された…。




『ねぇ〜ちゃん!
うちええもん揃えとおし、安いで覗いてって〜な!』




商店街の店はお祭り騒ぎのようだった…。




“そこらへんに、ももたがいる。”
何て思いながらサキさんの家まで急いだ。




留守のようなのでサキさんの帰りを待つ…。


ひたすら待つ…。


まだまだ待つ…。




夜になり、かなり冷え込んできた…。
“まさか!サキさん。
今日帰ってこないとか?”なんて不安がよぎる…。




『…咲良さん?』




…この声、サキさんだ!!

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