《MUMEI》

「啓太、もう少ししゃがんで。」
啓太の頬をつまんで、葵が下に引っ張る。
「こう?」
「うん。」
次の瞬間、啓太が硬直した。
啓太の視界が葵に遮られ、啓太の唇が葵の唇で塞がれた。
付き合ってる訳でもないただの悪友からの、いきなりのキス。
啓太は、葵が唇を離した後も、状況を理解出来ないでいた。
「抱きしめてくれたお礼!ありがとうね啓太、あたし元気出たよ。それじゃ…」
「待て!」
「え?」
両腕を掴まれ、壁に押し付けられる葵。
「迷惑…だよね。こんな勝手な事して。」
葵の声が少し震えて、涙が滲む。
「でも、あたしの今を残したかった!だから…ごめん。もう行くね?」
啓太は、初めて見る葵の表情に、戸惑いを隠せない。
フェンスをこえて、葵が見えなくなっても、その場に立ち尽くしていた。

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