《MUMEI》 仕掛け「仁田さん?今から来て。」 「わかった。5分で行く。」 電話を切ると、葵はまっすぐ下駄箱に向かい、靴を履いた。 そのまま外に出ようとすると、背後から呼び止められた。 「早退か?」 またしても担任教師。 「具合が悪くて…」 葵が苦笑いをすると、担任も気まずそうな顔をした。 「何かあったらいつでも言えよ?それじゃ、お大事に。」 そう言って消えていく担任。 葵は静かに担任を見つめた。 もう裏切られるのは嫌だ。 もう悲しいのは嫌だ。 頼むから優しくしないでください。 もう戻れないんだから。 頭の中は混乱状態。仁田の車の音が聞こえてくると、ようやく頭の中が片付いた。 「さ、行くぞ。」 そう言って校門を抜けると、仁田のスカイラインが葵の前に止まった。 いそいそと助手席のドアを開けようとすると、仁田が手で、後部座席に座れと指示する。 葵は不思議に思いながら、後部座席に座った。 「とりあえず、これ持ってろ。」 そう言って、ポーチを葵に手渡す。 葵は、その重みで、すぐに拳銃だとわかった。 「非常事態…ですか。」 「ああ。」 通り過ぎて行く街路樹を眺めながら、静かに会話する。 「ネタもとは?」 「この前殺したサラ金の頭は囮だったんだよ。依頼主と繋がりがあった。」 「最初からあたし達を狙ってたってこと?」 身を乗り出して、葵が言う。 「どうやらそうらしい。」 「あたし死ぬかなぁ?」 仁田はしばらく黙ってから、少し意味深な笑いを浮かべて答えた。 「こっちも対策はある。仲間を呼んでおいた。」 そう言って、車が減速し、古い一軒家の車庫に車を止めた。 「先に言っておくけど、奴は変態だから気を付けろ。」 先を歩く仁田が、玄関の手前で言った。 葵は少し寒気を感じつつ、仁田について行った。 「澤田!入るぞ。」 玄関のドアを開けて、靴を脱がずに上がり込む仁田。 葵が続こうとした瞬間、座敷とを仕切っていたふすまが蹴破られ、拳銃が飛び出す。 仁田も同じタイミングで、拳銃を抜いていた。 「相変わらず反応は良いな。」 「お前こそ。相討ちか。」 澤田と呼ばれる新しい仲間は、仁田とは違う雰囲気だが、仁田の選定には狂いはなさそうだ。 前へ |次へ |
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