《MUMEI》 「安西から、離れろ」 神部だった。 「おい、そういう言い方……」 安西が窘める。 「早く飲み物を買いに行くべきだろう。」 神部の一言で安西は渋々その場を離れた。 神部と二人きりは居辛い。 「安西に金輪際、近付かないで下さい。」 刺々しい言い方だ。 恐らく、俺は神部に嫌われている。 「……どうして。」 俺の答えが不満みたいで舌打ちを一度してから、睨み付けられた。 「あんたを、軽蔑します。 見たんですよ、バンガロー内で藤田と何かしていたでしょう。 そして今日も誰かは分からなかったけれど……」 見られてただって……? ……待てよ。 「藤田なのか?」 「そう言ったでしょうに」 暫く頭の回転が停止した。 「……ありがとう!」 勢い余って神部に抱き着いてしまう。 やっと、 胸のつっかえが取れた。 「はーなーせー」 神部は暴れるがキスだってしたいくらいに感謝している。 「ああ、ごめん神部。俺が嫌いだったよね。」 「阿婆擦れに触られたくないだけです。」 あ、アバズレって何……? 「分かってますか?厭味ですよ。」 親切に教えてくれた。 「そうか、ありがとう。」 「はぁ、貴方は全く………………拍子抜けですよ。」 溜め息深めに呆れられた。 「俺は誰にでもそういうことしてる訳じゃないからね?藤田のはたまたま事故だったけど その、外のは……本当に、心が通ったんだから……」 神部の顔がひくついた。 「ま、構いませんけどね。こちらには関係ないんで。勝手にしてくれという。」 「ごめん……」 「謝るな!」 怒られた。 「ごめん」 睨まれると強張る。 「いいですよ。もう、なんでも。貴方には一生懸けても歩み寄りません。」 「俺はじゃあ、神部に離れられた分、必死でしがみつくよ」 「…………あんた、普段からそんなだから……いや、なんでもありません。」 「え、何?」 指を指された。 「これ以上近付かないで下さい!」 やっぱり、神部に嫌われているのか……。 「神部は、俺を思ったより嫌っていないでしょう?」 「知りませんよ」 突っぱねているけど本当は……。 前へ |次へ |
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