《MUMEI》 迷惑な客店長の言葉に甘えて、更衣室で気持ちを落ち着かせてから、制服に着替え、タイムカードを押した。 「ご苦労様です」 店長と、春休みに出来上がったカップルに声をかける。 「あ…」 「ご苦労様」 (? 何だ?) いつもは、素早くあがる二人が、なかなかレジから動かない。 「ほら、帰るぞ」 …違う。 帰りたがらないのは、女の方だけだった。 「え〜、もうちょっと…」 俺は、女の視線を辿って… (げっ!?) 思わずしゃがみこんだ。 「どうした!? 田中」 心配した店長が、大声を上げた。 …おかげで、気付かれてしまった。 そいつはレジに近付くと、俺を見下ろして、いつもの… 有難い笑顔で話しかけてきた。 「良かった。田中君、いたんだね」 「…今、来たんだよ」 (つーか、何でいるんだよ?) 俺は、高山を睨みつけないように気をつけながら、ゆっくりと顔を上げた。 「仲村さんから聞いたんだ」 (あぁ、そういえば教えたっけ…) 仲村さんから部活はどうするのかと質問された俺は、確かにアパートの近くのコンビニでバイトするからやりませんと答えていた。 前へ |次へ |
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