《MUMEI》 想月◇◆◇ この夜も、静々と平安京を彷徨っていた姫君。 すかさず、神夜を捜しあてた女房が諭す。 「姫様、何卒お戻り下さいませ。上皇様がお待ちにございます」 神夜は背を向けたまま、ごめんなさい、とだけ小さく答えた。 今は、内裏に戻る気分ではない。 御簾の内にいるのが辛いのだ。 もしかしたら、今夜帰って来るかも知れない。 僅かな、露かも知れぬ程の小さな期待。 だが、それが姫君を支えていた。 (竹千代‥‥‥帰って来て‥) 幾度も、心の中でそう呟く。 只、その想いが届く事を信じて。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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