《MUMEI》

『…咲良さんやんな〜?』



不思議そうな顔で私を、見つめるサキさん。




『…サキさぁ〜ん!
今日はもう、会えないかと思ったよ…。
いきなり来てごめんね…。どうしてもサキさんに、会いたくて…。』




『…いや〜。
かまへんけど…。驚いたわ…。どないしたん?わざわざ大阪まで…。
とにあえず、どうぞ。』




家に入れてもらって、事情を説明し、今日はサキさんの家に泊めてもらうことになった…。




お互いテーブルに向かい合って座る…。
私は大きく深呼吸をして話し始めた…。




『…サキさん。
私が大阪まで来たのは…どうしてもあなたに直接、会って、話したいことがあったから…。
…ももたのこと………。
…私。…あの。…実は。
…………。
ももたが、サキさんと別れたいって言い出した原因は…私なんです。
……ごめんなさい!!』




驚くこともなく、ただ私を、じっと見つめているサキさんを見て、私は、話し続けた…。




『ももたが…サキさんに別れを切り出す前の夜…私、ももたと一緒にいたの…。…私には、付き合ったばかりの彼がいて…。
…その人は、私にとって“初めての彼氏”だった…。…でも彼には言えなくて…恥ずかしくて…秘密にしてた。…言えなくて。
その彼が、家に泊まりに来ることになって…
…私、処女だってバレたくなくて……。
…あの日。
ももたに“抱いてほしい”って頼んだ…。
私が無理矢理、お願いしたの…。』




サキさんが私の話を遮る。




『そんで桃太…。』




サキさんは目に涙を溜め、押し殺した声で言う。




そして私は、頷いた…。




『本当にごめんなさい。
…私のわがままです。』




もう、サキさんの顔は見れなかった…。




『それで、桃太と咲良さんは付き合うことに…?』




『…ううん。
ただその一度きり…。
…私は、付き合ってる彼の事しか考えてなくて…
サキさんや桃太の気持ちを踏み躙ってしまった…。』




『…桃太に対する気持ちは全く無かったん…?』




『…うん。』




言葉にすると、改めて自分のしてしまった事を痛感し、自分自身に失望した…。そんな中、サキさんが急に立ち上がった。




パチンッ!!




おもいきりビンタされた。



『…サイテーやな。
あんたも桃太も本当に、
サイテーや!!
何なん!?それっ!?
そんで何…?
わざわざそんな事、伝えに来て何のつもりなん!?』




『…ごめんなさい。』




ひっぱたかれた頬よりも、胸がズキズキと傷んだ…。




『…ももたは今、
スゴく後悔してる…。
サキさんに何も言い訳しないのは、あなたが真実を知って傷つかないため…。
…悪いのは私なの。
ももたは、サキさんを裏切った自分が許せなくて“別れ”を選んだ…。
だから…全てを知っても、サキさんがももたを愛しているのなら、また二人は元に戻れるんじゃないか…って。』




『…咲良さん。
あんたオカシイわ…。
自分の立場分かってるん?何?わざわざ私に責められに来たん!?
自分で、私らの仲をぐちゃぐちゃにしといて…。』




サキさんの言う通りだった…。私はバカだ…。




サキさんを傷つけて…。
二人の仲を元に戻せたら…なんて…偉そうに。




『…本当にごめんなさい。私は、許してもらえなくて当然だと思ってます。
…やっぱり私、帰ります。お邪魔しました……。』




もう無理だ…。
“ごめん。……ももた。”

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