《MUMEI》

「早速だが、今後の予定を話そうか。」
リビングのソファーに、葵と仁田が並んで座る。
澤田は冷蔵庫から牛乳を出して、2人の前に置いた。
「その前に一ついいか?」
澤田が向かい合ったソファーに座って言う。
「このガキは何だ?差し入れか?」
葵を見ながら澤田がニヤリと笑う。
葵はつい目を逸らしてしまった。
「こいつと組んで、仕掛けるんだよ。」
仁田の目は本気だった。
「なるほど、もう足元すくわれそうってことか。」
ポケットからタバコを出して一本くわえると、ソファーに放った。
そのまましばらくタバコを吸って、澤田が口を開いた。
「そのガキ消せば早いじゃん。」
同時に、腰から拳銃を抜く澤田。
その目の前には、銃口が突き付けられていた。
「確かにガキだが仕事は立派だ。な?頼む。」
その瞬間、葵の持つ拳銃はしっかりと澤田の眉間を捉え、澤田は拳銃を抜く段階だった。
「なるほど、確かに仕事は良いな。」
澤田は再び腰に拳銃を戻して、話を再開した。
「で、お嬢ちゃんは接近戦したことあるか?」
「いえ、狙撃だけです。」
拳銃を、仁田に渡して答える。
「格闘技は?」
「仁田さんに教わった空手だけです。」
「人、殺せる?」
その質問で、葵は固まった。
スコープ越しじゃない死体を見た事の無い葵にとって、それは回答に困る質問だった。
「そ、狙撃なら。」
俯く葵。
澤田は今までと違う、低い声で一言。
「要はお前の代わりに死ねって事か。あ?仁田。」
「違う。今回のヤクザを壊滅すれば、俺達の未来が明るくなる。俺も澤田も。葵にはまだ未来がある。」
仁田は至って冷静に答える。
「ヤクザ潰すのか。狙撃しか出来ないただのクソガキのお守りしながら。」
澤田はタバコを握りつぶして仁田を睨む。
拳から煙が漏れていた。
「わかった!ただ一つ条件がある。」
澤田が再びニヤリと笑う。
「何だ?」
仁田が聞き返す。
「終わったら葵ちゃんとやらせろ!」
身を乗り出して、澤田が仁田に言う。
「ぇえっ!?」
葵は仁田の言葉を思い出した。
奴は変態だから気を付けろ…。

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