《MUMEI》
異世界の街
エデンに住む者の義務・・それは人口の増加を防ぐために、異世界への旅を強制するものである。一定の条件を満たさなければエデンに帰ってくることすらできない厳しいものであった。この法は非人道的であるという意見も上がっているが、異世界へ旅立った者の中には異世界が気に入りそこに住む者達もいるといった現実もある。
目を開けるとそこはすでにロストグラウンドの街中であった。時刻は昼を過ぎたあたりだろうか・・街は喧騒に包まれ活気がある。いたるところに露店や屋台が並び商人達が品物を売ろうと声をあげている。
(さてがんばりますか。)
心中でそうつぶやき、空を見上げる。
「何ぼーっとしてんだ?」
目の前には弓を装備した琴が立っている。転送用のゲートにいたときとは変わって軽装の鎧を纏い日に焼けた外套を羽織っている。いかにも冒険者といった身なりであった。
「よろしくな狩月」
「あぁ、よろしく頼む。」
そう答えた狩月も皮製の軽い鎧を纏い右手に盾を装備し、腰には剣も付けている。
〔琴様のPT申し込みを受け入れますか?(YES)(NO)〕
突然目の前にディスプレイが表示された。
「なんだこれ?」
「PT申し込みだよ PT組んだらマップ上にお前の場所が表示されるようになるんだよ。」
「なるほどね。」
「そうそうテレパス会話って知ってるか?」
「テレパス会話?」
フォン、そんな音と共に目の前に半透明のウィンドウが展開する。
「テレパス 文字が出ただろ?これがテレパス会話。」
「使い方わかんね〜〜〜〜」
今までの生活とまるで違う生活に困惑している狩月。エデンではテレパスと言う言葉自体が無いのだから当たり前かもしれない。
(ぜんぜん解らん・・周りの人がこっち見て「がんばれ初心者!」とか言ってるし・・)
「テレパス アイテム欄開いてみろ。そこにマニュアルってあるだろ?他の基本も載ってるから読んで覚えろ。」
基本中の基本だからと笑っている。そんな琴を見て苦笑する狩月。
「あいよ」
そう言いながらアイテム欄からマニュアルを展開し読み始める。
5分後・・・
読み終わった狩月は手順を思い出しつつテレパス会話を使用してみる。
「テレパス 読み終わった。結構簡単だな。そういえばこれって、遠距離でも使えるのか?」
「テレパス 相手が解っていれば送ることはできるけど、相手が寝てたりすると意味が無い。んじゃ行くか。」
琴は慣れた様子で街の中を進んでいく。付いて歩いて行くが周りの風景が気になってしょうがない。
(前にも来たことがあるはずだけど・・覚えてないか。)
観光では無いのだが今までエデンで過ごしてきた狩月には見るもの全てが興味を引く。
エデンではありえない空中に浮かぶ建物や、モンスターを連れ歩くサマナー、人と獣を混ぜたような獣人や有翼人種・・(獣人などの見かけが人間から大きく外れている者はエデンでは生活はしていない。)
空は快晴、エデンの太陽の代わりといった感じで4つの小さな恒星が光り輝いている。
ロストグラウンドと呼ばれるこの世界は、異世界のヒトに対しても寛大であり多くの移民や冒険者が生活している。中でもこのリーベルの街は異世界との玄関口であり多種多様の人種がおり珍しい品物が露店に並ぶ。このことから商業の聖地とまで言われている街である。
事前に知識として知ってはいたが、現実の風景に圧倒されつい立ち止まり、周りを眺める。
「あ・・」
気がつくと琴を見失っている。つい周りを見るが知り合いなんて居るはずも無い、
(・・・どうしようかね〜)
と途方にくれていると
「テレパス どこ行ってんだ?東口に居るから早く来い。道は適当に聞けばいいから自力で来いよ。」
文面から笑っている琴の顔が思い浮かぶ。やれやれと思いながら周囲を見渡す。看板の類のものは見えないかとしばらく辺りを歩き回ってみる。街は人が多いが機械のようなものはまったく見えず、人の移動は徒歩が基本のようである。

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