《MUMEI》

◆◇◆

 夜桜がまだ本調子ではない為、狐叉は彼女の為に度々市へ出掛けるようになった。

 少なからず負担はあるものの、術とは違い、変化はさほど苦にはならない。

 人の姿をとるというのも、狐叉にとってはなかなか楽しいものなのである。

 きょろきょろと出店を見回していると、彼女の目に、ふと匂袋が目にとまった。

(夜桜が好きそうだな‥)

桜色の小ぶりな巾着。

ふわりと広がる、香しい匂い。

「贈り物かい?」

 初老の翁が、にこやかに声をかけてきた。

「他にも色々あるよ。見て行くかね?」

「あ‥はい」

 些か戸惑いつつも、狐叉は翁に頷いた。

◆◇◆

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫