《MUMEI》
第十二話:晴天
 昨日の敵は今日の友とはよく言ったものである。
 試合で大敗した相手とここまで打ち解ける奴がいたなんて・・・・

「いやあ! マジ面白い!」
「俺も! 新ちゃんはいい奴だ!」

 オレンジジュース片手に、新と賢吾は見事通じ合っていた。
 音楽、陸上、さらには食べ物やゲームまで同じ趣味の奴に会えるとは珍しいことだ。

「それにしても、新ちゃんは良い詞を書くね。歌わせてもらって楽しかったよ」
「それなんだけどな、二度目のサビがまだ出来てなくてさ、
 賢吾、何とかしてくれないか?」

 無茶苦茶な注文である。
 しかし、賢吾は作った。

「この曲を変えるかもしれないけどさ」

 賢吾は立ち上がり歌い始める。

「愛を歌う日にこの世の理の
 本当の意味を知るだろうか?
 ただ野性のままに君を求めて
 こんなに愛してると囁くよ」

 とんでもないと思った。
 一瞬にしてラブソングに深みが増してしまった。

「お見事・・・・」

 昴がつぶやいた言葉だけが時間を持たせる。

「まあ、今日は美砂のやつを歌うんだろ?
 俺がキーボードやるからさ、昴ちゃんバイオリンやりなよ」

 賢吾の意見にようやく全員がはっとした。

「ああ、それじゃあいきますか」

 再び立ち上がるステージの上。
 気がつけば喫茶店のドアが開かれている。
 それだけ客の入りが多くなっていた。

「どうも! 『晴天』の新入り、原井賢吾です!」
「ええっ!」

 いつの間にか決まったグループ名。
 この賢吾の思いつきが後の晴天に繋がっていく。

「今日は昴ちゃんがバイオリンやりますので、
 俺が変わりにキーボード弾きます!」

 歓声が上がる。昴のバイオリンデビューは初めてだった。

「それでは姐御にバトンタッチします」
「姐御って・・・・では、晴天の新曲を聞いてください。
 タイトル『願い続けること』」

 拍手が巻き起こる。
 そしてバイオリンの静かな音色が響き渡り、
 とてもせつない思いが伝えられていく。

 物語は簡単なこと。
 起源前の戦いの歴史の記憶を持つ一人の女性が、
 戦いに命を落とした愛する人を思っていたという歌。
 ただ、歌詞が切な過ぎた。

「古代文字に書かれた戦いの歴史は
 その時代に起こった一部でしかなくて
 本当に伝えたい気持ちはここにある
 それは人を愛したこと」

 二番目のサビを歌ったとき、すでに空気は静まり返っていた。
 そして最後のサビに入る。

「起源前まえから君を探していた
 もう一度出会える時代を求めて
 君に出会えたから僕は笑えたんだ
 だからもう一度だけ会いたい」

 秒針の音がしばらく聞こえていた。

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