《MUMEI》

 あいつは部屋に入るなり、
「うえっ!なんだこの臭い!」
 俺は急いでキッチンとそれに続いた居間の窓を開けた。
「うわー、これ、何日洗ってないんだよ?」
 あいつは、流しの中に積まれた汚れた食器を見ながら言った。まさかあいつが一人で来るとは思いもしなかった。来るときは他の悪友と来て、夜じゅう騒ぐのだが。

 あいつは居間の薄いカーテンを閉め、後ろを向いたままスーツを脱ぎ始めた!またズボンの中の馬鹿者が疼く。
 時々、横顔をこちらに見せて、あいつはスーツを自分の体から剥がしてゆく。汗ばんだうなじ。長いまつげ。乱れた前髪から分かれた耳の前の毛の下から汗が伝う。
 靴下を最後に脱ぎ捨てたあいつは、薄いTシャツと黒いビキニパンツ姿になった。
 俺は目のやり場に困った。
 汗でTシャツが体に張り付いていた。均整のとれた体とうっすらと付いた脂肪。しかしその下の筋肉の強靭さは先ほど実証済みだ。
「あ〜、見ろよ!やっぱり!」
 あいつは責めるような目で、俺にスーツの背中の黒いしみを見せた。
 俺の涎だ。
 内心ほっとした。俺にあいつはスーツを投げつけた。
「しみを取れよ!そんなんじゃ帰れないよ!」

 俺は風呂と続きになっている洗面所に行って、ドライヤを出した。ドライヤのスイッチを入れようとしたとき、ノブのきゅっという音と水の流れる音がした。そっとあいつを伺うと、キッチンの流しで食器を洗い出していた。
「お・・おい、そんなことしなくてもいいよ」
「こんなひどい臭いのところにいるのいやだよ。皿、洗ってやるからそっち乾かせよ」
 俺はそそくさとズボンを脱ぎ、下着で汚れを拭き取って、普段着にしている裾が長い生地の厚い海水パンツを履き、Tシャツ姿になった。

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