《MUMEI》
背中の片翼
俺は、YシャツとTシャツを脱ぎ、上半身裸になって、年老いた医師の前に座った。


医師は、胸に聴診器を数回あてると、後ろを向くように俺に言った。


「まったく、今時の若いモンは…」


俺の背中を見た途端、医師が呟いた。


「すみません」


「背筋を伸ばせ」


猫背になっていた俺の背中を医師が、叩いて気合いを入れた。


俺の背中には


真っ白な羽根の刺青が彫られていた。


ただし、翼は一枚だけ。


(いい趣味してるよな、忍も)


旦那様が死んだと聞かされたあの日。


俺は、何でもいいと言ったのに。


忍は、わざわざ彫り師を離れに呼んで、俺の背中に刺青を彫らせた。


旦那様は俺を天使のようだと言った。


だから、忍が俺の背中に翼を彫らせたのはわかるが…

(そんなに、俺が憎いのかよ、忍)


俺が旦那様の元へ飛んでいかないようにと、顔に似合わないファンタジーな理由を付けて、忍は片翼だけを彫らせた。


(まぁ、いいさ。これで、隠せるなら…)


旦那様が好きだと言った、あの傷を、旦那様以外に見せないようにしたい


それが、俺が忍に頼んだ唯一の事だった。

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