《MUMEI》

澤田は、家の前に止まっている、スーツ姿の男達が乗って来たBMWを、仁田のスカイラインの横に止めて、玄関先の死体を家の中に引きずり込んだ。
仁田は玄関にある死体を、座敷に横たえる。
「同じ同業者だが悪く思うな。」
そう言って、腹の上で手を組ませた。
澤田も座敷に死体を横たえると、仁田と同じ処置をした。
仁田はそのまま葵を起こしに行く。
「葵、おきろ。」
「ん…朝?」
葵は寝ぼけている。
「いいから来い。」
無理やり仁田に腕を引かれて座敷に向かう。
葵は座敷に入った途端、仁田の腕を掴んだ。
「よく見ておけ。これが殺し屋の成れの果てだ。」
タバコに火を点けて、仁田が淡々と話す。
澤田は、早くも移動する準備を始めていた。
「仁田、金持ってるか?」
スーツケースに、家中の銃火機を詰め込みながら、澤田が言う。
その様子を見ながら仁田が答える。
「現金は50万、キャッシュなら8000万あるよ。」
それを聞いて、澤田はニヤリと笑った。
「葵ちゃんにはこれ、仁田はこれ。2つで20万よこせ。」
澤田は、2人に拳銃を渡す。
どうやらそういう状況になって来たらしい。
仁田は苦笑いで、20万を渡すと、葵を見た。
「お前運転しろ。」
そう言って、仁田が鍵を投げる。
葵は一瞬考えて、聞き返した。
「あたしがですか?」
「俺達飲酒だもん。」
開き直った仁田。
仕方なく運転する事になった。
すぐに家を出て、澤田のスーツケースをトランクに積むと、葵が運転席に座った。
「これオートマですよね?」
「おう、左がブレーキで右がアクセル。RがバックでDが前進な。」
簡潔に、仁田が説明を終えると、葵は何度か頷いた。
そのまま、車庫を突破して、庭に突っ込んだ。
「あれ?仁田さん!これ難しい!」
仁田は苦笑い、澤田は大爆笑。
葵は混乱した。
「落ち着いて、レバーをRに合わせろ。」
「はい…」
「ブレーキを離せ。」
「はい…」
バキバキと、垣根を踏み潰しながら、車庫に戻り、そのまま道路に出た。
「Dにレバーを合わせろ。」
「はい…」
ようやく車が移動を始めた。
「あ、慣れたら簡単です!」
極度の緊張で、妙にテンションが上がる葵。
「信号左ね。」
仁田の指示に頷くと、左の縁石に乗り上げながら、信号を通過する。

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