《MUMEI》
便利な五月病
(普通もたまにはいいもんだな)


五月に入ると、俺は愛想笑いも疲れてきて、休み時間も自分の席でボーッとしていた。


普段の俺なら、これでは駄目だと頑張るところだが…

今は、五月。


同級生も、先輩も、近所の住人も、そんなやる気の無い俺を見て、普通に五月病だと思ってくれていた。


何もかも、どうでもいい。

めんどくさい。


やる気が出ない。


それは、俺の本性だった。

ゴールデンウィークに、普通に親戚として様子を見に来た忍も、今月だけは大目に見てやると言っていた。

(ずっと五月だったらいいのに)


昼休み。


意外と人気の無い屋上で、ゼリー飲料を飲みながら、俺は青空を見つめていた。

その時。


「何か用ですか?」


(ん?)


聞き覚えのある声がした。

どうやら、二人の位置からは俺のいる位置は死角になるらしく、二人は屋上には誰もいないと思っているらしい。


(これってひょっとして…)

誰もいない屋上に、女を呼び出した男。


「仲村希さん、好きです。付き合って下さい」


俺の予想通り、その男は普通に告白し


「ごめんなさい。私、他に好きな人がいるんです」


普通にフラレていた。

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