《MUMEI》

 俺は自分が許せなかった。どんな顔をしてキャンパスに行って、あいつに会うのだ!もう、あいつも俺のいるところには出て来ないだろう。
 ベッドにはあいつの残した破れたビキニパンツがあった。女の下着のようなナイロン製だろう。弾力のある生地は破れておらず、縫い目からだ。
 俺はあいつの匂いを吸った。あのめくるめく官能の時間。俺はおのれの『オス』を極限までさらけだした。あいつは犯されながら安い下宿の壁を気にして叫びを堪え、枕に自分の口を押しつけた。
 あいつは決して女の様な体ではない。だが、男の骨っぽい体でもない。ギリシャ彫像の両性具有者の様な柔らかい体だった。体毛は薄く、臑毛も目立たない。弾力のあるきめの細かい肌。
 運動をやっているあいつの尻は一見、女性のように大きく見える。しかも柔らかかった。あいつは俺の餌食になるために生まれたのだろうか。

 俺は次の日もその次の日も、横たわったままあいつの幻を追って過ごした。
 腹が空けば保存食料を喰らったが、そんなに買い貯めてあるわけでもない。時間が経つとあいつの下着の匂いを嗅ぎ、自慰をした。体力とは全く別の、俺の精神の中の獣が俺の性欲を支配していた。
 俺は本当に気が狂ったのかも知れない。ただ、あいつの『感触』が失われて、喪失に絶望することが怖かった。
 俺の喉はからからになり目眩がするようになった。それでも俺はあいつの汗と尿の匂いにおのれを狂わせた。
 熱が出て来たのだろう。俺は動けなくなった。

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