《MUMEI》
普通にいい人
「ありがとうございます」

「いや、俺は何もしてないよ。何か、あいつらびびってたけど」


「そりゃ、先輩と知り合いだとわかったからですよ」

「そう…か?」


「そうですよ」


それが、普通だ。


「あ、そういえば…」


「? 何ですか?」


「あの、祐から聞いたんだけど…。俺もさ、前見られた時も大丈夫だったし、君は信用してるけど…」


(あぁ)


葛西先輩は、昼間の屋上での事を言いたいのだとわかった。


「大丈夫です、言いませんから。
かわりに、今日の事、秘密にしてください」


「いいのかい?」


俺は頷いた。


普通は、いじめられてても、周りにはなかなか言えないから。


「どうしても、大変な時は、ちゃんと言った方がいいよ」


「ありがとうございます」

俺は葛西先輩に頭を下げて、学校を出た。


(普通のいい人だよな〜)


あんな人のいい葛西先輩が、ホモの上に二股かけられてて、それに納得してるなんて…





「ん? どうした?」


「いえ、失礼します」


(この人もいい人なのにな)

バイトを終え、アパートに戻ってきた俺は、偶然帰宅時間が一緒になった屋代さんを見てそう思った。

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