《MUMEI》

◆◇◆

「風が穏やかだな‥」

 そう呟く夜桜の髪が、さらさらと靡く。

 朗らかな陽気に包まれた庭は、春の息吹に満ちている。

 花々の間を、ひらひらと白い蝶が舞う。

 それは夜桜の黒髪に止まった。

「綺麗‥」

 奏美が呟いた。

 見えてはいない。

 だが、感じる事は出来る。

 それは、奏美にとって嬉しい事だった。

 蝶は、ふわり、と舞い上がり、奏美の周りをひらひらと飛び回る。

 奏美が人差し指を掲げると、蝶はその指先に止まった。

◆◇◆

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