《MUMEI》
あいつは激しく言った。
「いいか、今はお前、死にそうだから、世話をしてやるんだ。でも、これっきりだからな!」
俺は自棄になって言った。
「・・それならほっといてくれ。お前に嫌われるのなら死んだ方がいい」
「バカっ」
俺はあいつの作った粥を口に入れて貰った。あいつは手を動かさない俺に、怒りながらも食べさせてくれた。俺はハネムーンのようなこの時間に酔った。
「・・・お前がのたれ死んじゃって、それが俺のせいだってなったら堪らないよ!」
「・・・俺が憎い?殺したい?」
「ああ、出来るなら殺してやりたいけど、人殺しはいやだ」
「なんならお前の為に死んでも良い。お前は命令すればいい」
「・・・冗談じゃない!大迷惑だ!お前みたいなのを変態のストーカーって言うんだ!」
真夜中を過ぎて、薬が効き始め眠くなった。
俺は懇願した。
「・・・お願いだ。明日までここに居てくれ。もし、目を覚ましてお前が居なかったら、俺は死んじまう!」
あいつはしょうがない、というような顔で言った。
「・・・言っただろ。今回だけ世話してやるって。だから安心して寝ろよ」
あいつは片づけものを済ますと、Tシャツとパンツ姿になり、部屋を暗くして俺の横に横たわった。
俺に性懲りもなく近づいて来るあいつに驚いたが、あいつの手を握った。拒まなかった。俺は安らかな気分だった。あいつの息づかいが耳元でする。
あいつが囁いた。
「・・・良かったの?あのとき。俺なんか抱いて満足出来たの?」
俺は少し驚いたが、
「・・・ああ、俺の人生で最高の時間だった。お前には辛かったろう。すまない・・・」
あいつが俺の上に覆い被さってきた。あいつの口が俺の口に近づいた。潮の匂いの息が俺の顔にかかった。もうあり得ないと思っていた状況の期待に、俺の心臓は高鳴り始めた。
「今夜だけまた、お前のものになってやる。でも今度は俺を満足させろよ」
眠気が覚めた。
俺はあいつの上になった。
俺たちの部屋には俺たちの甘く湿った体臭が立ちこめていった。
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