《MUMEI》

◆◇◆

 狐叉は刹那瞼を閉じ何かを考えているようだったが、眼を開くと月を見上げた。

「側にいてやりたいと思った。‥お前の側にいて、守ってやりたいと」

「私を‥守る‥?」

「昔‥‥‥私がまだ子狐であった頃‥一人の幼女に世話に‥なった事があってな。怪我をしていた私を介抱して、住家に連れ帰ってくれた‥」

 月色の瞳に映る光が、微かに震えた。

「暫く経って‥その子は遠くへ行く事になった。‥旅立つ朝、その子は私を抱き締めて、また会いにくるから、と囁いてくれた」

「その後‥女の子には、会えたのか」

「いや」

 狐叉は刹那言葉を詰まらせた。

「会う事は‥出来なかった」

◆◇◆

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