《MUMEI》
身の危険
「素敵よ、祐也」


そんな俺のツルツル足を、津田さんはかなり気に入ったようだった。


「…女みたい」


津田さんの取り巻きの男がポツリと呟いた。


「そういや…祐也ってトイレ、個室ばっか使ってるよな」


(何だその目は!?)


守は改めて俺の体を見つめた。


…ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。


「お前、何考えてんだ! 俺は男だからな!」


「確かにその声は男だけどさ…」


守が言うように、俺の声は顔に似合わず、屋代さん並の大人の重低音ボイスだった。


「これで顔が可愛かったら、男でもイケるかも…」


守の言葉に、周りの同級生の男達も深く頷いた。


「ふざけんな!」


俺は慌てて、走り幅跳びの行われる陸上競技場のフィールドに向かった。


(顔が可愛かったら…だと?)


『可愛い祐也。どこも可愛いけど…

顔が、一番可愛い』


俺は、首にかけていたハチマキを手にして


前髪の上からきつく結んだ。


…どんなに走っても、顔が見えないように。


皆には、ハチマキに書かれた必勝の文字が見えるようにと言い訳した。


そして、俺は、前もって調べておいた普通の距離を飛んだ。

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