《MUMEI》
一番の理解者。
“吉沢さんだ!”




『…もしもし。』




『あ〜俺。
今、病院なんだけどさ…
…赤ちゃん。
もうすぐ産まれるって…。今日は無理だけど、明日か明後日には必ず…。』




『…そっか…分かった。
…良かったね。
奥さんは、きっと大変なんだから、しっかり傍に居てあげて…。』




『…うん。…明日の祭り、行けなくてゴメンな…。』




『…ううん。…じゃあ。』




私の電話の内容が聞こえてしまった、ももたは首をかしげた…。




『…電話、彼氏か?
“奥さんが大変”ってどういうことや?……まぁ。
言いたないなら、無理には聞かんけど…悩みがあるなら1人で抱え込むなや。』




『…うん…いいの。
もう終わるんだから…。』




気が付くと、私は、今まで頑なに秘密にしていた“吉沢さんとの関係”を包み隠さず、話していた…。
もう別れると決まったからだろうか…。




本当は誰かに聞いてほしかったのかもしれない…。
今まで声に出せなかった“不倫”という言葉を何度も使った…。




『…不倫か……。
お前もエライもんに手を出してしもたな…。
子供が産まれるまでなんて…そんなもん無理やろ?
片思いならともかく…お互いの気持ちが通じ合ってしもたら、もう止められへんて。…なぁ咲良。
これは俺の勝手な持論やけどな!…恋ってもんは
こそこそ隠れたり、罪悪感持ってするもんやない。
もちろん遠慮するもんでもない。…そう思わんか?』




ももたの言葉が胸に刺さった…。
いつもの私なら、きっと泣いていただろう…。
でも今、涙は出ない。




『まぁ〜俺みたいなんが、“恋愛”を語んな!って感じやけどな!』




と言ってニコっと笑う、ももた。




私はこの数ヶ月間で、ももたに幾つの秘密を打ち明けてきただろう…。
25年間…誰にも言えなかった私の悩みを、ももたの笑顔が救ってくれた…。




そして、ももたはその全てを受けとめてくれた…。
人に嫌われたり、軽蔑されたりしたくない!
って、意地張って生きてきた自分がどれだけ、小さな人間かって思いしらされてばかりだった…。




『…ねぇ。ももた。
私、嫌な奴に成長したよね…?ももたと出会ったばかりの頃は、こんな奴じゃなかったのにね…。
…あの頃の
…幼稚園児からやり直せたらいいのにね…。』




私の話を聞いて、呆れたように、ももたが言う。




『…あのな〜咲良!
よう聞きや!
人生っちゅうもんはやり直しが利かへん。
そやから、人間は“後悔”をするんや。
そんで“後悔”する事によって“成長”出来る。
マリオでいうたら1UPキノコをGETした…みたいな。
…何や“金八先生”みたいな感じになってしもたけど、俺の言いたい事は、咲良は今のままで十分や。
どんどん後悔して、成長したらええやん!』




『…親父クサイよ。』




何だか照れ臭くって…嬉しくって、冗談でしか返せなかった…。




『やかましわ!
それにお前が幼稚園の頃に戻ったら、また俺の後ろばっか付いてくるやろ?
そんなん困るしな(笑)!』




『え〜!?そうだった?』




『そうやっ!
“さくらは、ももたんのお嫁さんになる〜。”言うてべったりやったやんけ!
今みたいに憎まれ口きかんと“ももた〜ん。ももた〜ん。”言うて!
ホンマに俺の事、大好きやったもんな!!
今と違って(笑)!!』




冗談まじりで笑い飛ばす、ももたに言いたかった…。




“今の方が、ももたを好きです。”って…。




私、ももたが好き。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫