《MUMEI》
或ル華ハ
一通りの事も過ぎ、林太郎は実朝の部屋に呼ばれる。

「参ったね、どうして呉れようか。」

実朝が一人掛けの椅子に深く腰掛けた。

「俺だって、犯人に対して同じ気持ちですよ。」

あの絵を盗まれたことが林太郎には何より悔やまれた。

「絵が見付からなかったり売られていた場合には君に払い戻して貰うよ。」

実朝は簡単に云うが、林太郎は今まで働いて来た一生分でも足りないくらいの値が付いていることは識っている。
接客は信用の問題なのだ。
それを失えば盗まれた絵では比べられない程の損害が生まれる。

犯人を見付けることは林太郎にとっても、実朝にとっても重要な問題なのだ。

「俺があの絵を絶対に見つけ出して見せますよ。」

必ず取り戻す、林太郎のあの絵への愛着は彼女への思慕にも似たものだった。

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