《MUMEI》 (よく働く…良い子だ…) 作戦はさっきの喫茶店で考えた。 そして怖がられないように髪も下ろして、いつも着ているような黒系の服ではなくイタリア人のような明るい服装。 それに眉間に皺が寄ってしまわないように、慣れないコンタクトもした。 あとは彼に話しかけるだけだった…。 コンコン…。 「はい?」 「花束を作って欲しいんだが」 店の入り口の開いている木のドアをノックして、後ろ姿の彼に話しかけた。 「ぁ…はい、好きなお花言って頂ければ…」 掃除の手を休めて彼はこちらを振り返ると、驚いたように綺麗な目が大きく開かれ俺の事をマジマジと見つめてきた。 「キミの…好きな花で」 「……は、はい///」 ー ある物への欲望と愛は、すべての骨折りと仕事を少ないものにする ー そんな格言が頭を過ぎる。 彼が器用に花束を作る後ろ姿を眺めながら、今日の労力は無駄では無かった事を実感した。 「いかがですか?」 「いいねぇ、美しいよ♪」 彼が作ったその花束を受け取ると、自分の横に抱えてみせた。 「お似合いです///」 「ありがとう、キミを抱えてるみたいだ」 「えへへ///」 彼は楽しそうに笑っていたが、しばらくすると少し不安げな表情になり俺を見上げた。 「…どなたに渡されるんですか?」 俺が考えていた通りの答えが返ってきた。 俺はそれにドキドキする感覚を抑えながら、喫茶店で考えていた答えを返した。 「飾るんだよ、ホテルの部屋にね」 そう言うと彼の顔から不安がフッと消えたと同時に、頬に赤みが差す。 「しばらく居るんですか?日本に」 「あぁ、今はバカンスだからあと1ヶ月ぐらいな」 そう、俺は彼に”しばらく日本に居るよ”という事と”俺はフリーだ”という事を伝えたかったのだ。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |