《MUMEI》
乙女なキング
「あ、俺、忘れ物したからちょっと戻る」


「そんな事言って、サボるんじゃないでしょうね」


(そんな恐い事できるか)


俺は津田さんに必ず行くと約束し、陸上競技場の更衣室に戻った。


(あったあった)


俺は、朝脱ぎ捨てた上着を見つけると、更衣室を出た。


「優勝おめでとう」


「うわぁ!」


薄暗い廊下の陰から出てきたのは、眩しい美貌の高山だった。


「ごめん」


「いや、お前、来てたのか?」


俺の質問に、高山は頷いた。


「それにしては皆静かだったけど」


「競技場の外にいたんだ」

「何で?」


「希さんに会いたかったけど…迷惑かなって。
俺、目立つし」


(一応自覚はあったのか)


それなら俺にも気を遣ってほしいと思った。


「それに、外からでも、声は聞けたし」


(まぁな)


希先輩は、普段からサッカー部の連中に怒鳴っているせいか、華奢な外見の割に声が大きかった。


「声聞いてるだけでいいって? どこの乙女だよ、お前は」


俺は半分呆れながら、高山を見た。


(普通は高山との方がお似合いだろうな)


しかし、恋愛の前で年の差など関係無いことを、俺はよく知っていた。

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