《MUMEI》
教育委員会
「え……自分で?」

「私ひとりでは手に負えない。なぜ公表する必要があるのか、なぜ認めて欲しいのかを自分の言葉で訴えるんだ」

「…やってみます!」

教育委員会の人達の前で話すなんて、すごく緊張する。

でもこれはオレだけじゃなくて有理のためでもあるんだ。


***


「失礼します」

授業を休んで委員会へ出席した。何かすごく怖い。

「……では始めましょうか。今日の主役も来たことですし」

でもいつもは何百万人という人を相手にしているんだ。この数十人なんて比べものにならない。


「私達は正直、あなたがこのまま光岳高校に通い続けることに反対です」

「理由は…まぁわかっているとはわかってると思いますが一応。まず生徒達の勉学の妨げになるということ」

「生徒達だけではありません。あなたもですよ?」

「……いえ、事務所にきちんと話して勉学中心の生活にできるだけさせてもらってます。その証拠にオレ…僕、成績まあまあだと思うんですけど」

「まあまあどころか優秀な方ですよ。最近の試験でも20位以内をキープしています」

と、校長先生。

「……しかし、クラスや学校のどこかに芸能人がいると思うと集中できないでしょう」

「でも春日有希に似てるって、話題になってから約5ヶ月程経ちます。今さら集中できないとか無いと思います」

何を言っても委員会の人達は首を縦には振らなかった。

「……あの、僕の家庭状況とか校長先生に聞いて知ってると思うんですけど、僕は学校に通いたいですし、働きたいです。両親も頼れる親戚もいません。正直、芸能人は普通に働くより収入が大きいです。だから――…お願いします。認めてください!」

「どうして学校に通う必要があるのか言えますか?」

「……春日有希を始めたのは弟なんです。その弟が病気で歩けなくなりました。弟が働き始めたのは、僕を高校に通わせるためです。今は自分の意思で春日有希をやっていますが、弟の考えは高校を辞めるくらいなら、芸能界を辞めて欲しい、ということなんです」


「……強い兄弟愛ですね。美しいと思いますよ」

「……どういう意味ですか」

「いえ」

「……増添さん、私の大切な生徒です。そういう発言は真っ直ぐに育つ心の発育に支障をきたします。やめていただけますか」

「す…すみません」

校長先生の初めて見るその剣幕にオレが驚いた。その人もびっくりしたらしく、すぐに謝ったし、他の委員の人達も驚いた顔をしていた。

「私自身、谷口くんのようなとても成熟した高校生に出会ったのは初めてです。ぜひ私は彼のこれからの成長と発展を見守って行きたいと願っております。皆様、公正な判断をよろしくお願いいたします」

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