《MUMEI》 サトルという人二人で夕食を済ませて台所に立つと、タバコの煙りがゆっくりと流れてきた。 タバコが大嫌いな私がなぜサトルと同棲しているのか。今のところ、サトルの声や仕草がタバコへの憎しみよりも愛しいからだろう。タバコは吸う本人よりも、そばにいる人への害のほうが大きいということを物知りのサトルなら必ず知っている。私の健康はどうでもいいのかしら? ふと台所に立っている自分がくやしくなった。湯呑みを二つ洗った時に蛇口を止めた。サトルの好きなミルクティーを入れ、背の低いテーブルに運び、テレビを見ているサトルを気付かれぬようににらみつけた。 「ねぇ…肺ガンになりたくな〜い」 柔らかい口調で囁いた。 「ねぇ…吸いた〜い」 サトルは口元の横に笑うと凹みができる。 クシュツとタバコを揉み消し、サトルは幼子のように今度は私の胸をその替わりに求めてきた。 私の負け… (明日に続く)byひなこ 前へ |次へ |
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