《MUMEI》 鋭い一言(…って、違うだろ!) 希先輩の顔立ちは、仲村さんにそっくりだった。 それは、二人が確かに愛し合っている証拠だった。 旦那様の御子息とされる三人の子供達は、全く旦那様に似ていなかった。 当たり前だ。 旦那様と奥様は、一度も愛し合った事などなかったのだから。 奥様が愛していたのは、幼なじみだという使用人の男だけだったから。 旦那様は、その事実を知った上で、奥様と結婚し、使用人の男を奥様の世話役に付けた。 そして、旦那様が愛したのは、最初は… で、次、が… 「祐也!何ボーッとしてるの? 何か歌ってよ!その素敵な声で」 (素敵な声、ねぇ) 俺を現実に引き戻した津田さんの言葉に、俺は苦笑した。 『何だ? その声…』 旦那様は、複雑な表情で俺を見つめた。 その時の表情が、俺が見た旦那様の最期の表情だった。 「大丈夫? 田中君」 「え?何がですか?」 普通に、陰で必死で覚えた唯一の持ち歌のカラオケ定番のバラードを歌い終えた俺に、志穂さんが話しかけてきた。 志穂さんが、俺を手招きして、そっと耳打ちした。 「無理して普通に振る舞ってるみたいだから」 ―と。 前へ |次へ |
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