《MUMEI》
鋭い一言
(…って、違うだろ!)


希先輩の顔立ちは、仲村さんにそっくりだった。


それは、二人が確かに愛し合っている証拠だった。


旦那様の御子息とされる三人の子供達は、全く旦那様に似ていなかった。


当たり前だ。


旦那様と奥様は、一度も愛し合った事などなかったのだから。


奥様が愛していたのは、幼なじみだという使用人の男だけだったから。


旦那様は、その事実を知った上で、奥様と結婚し、使用人の男を奥様の世話役に付けた。


そして、旦那様が愛したのは、最初は… で、次、が…


「祐也!何ボーッとしてるの?
何か歌ってよ!その素敵な声で」


(素敵な声、ねぇ)


俺を現実に引き戻した津田さんの言葉に、俺は苦笑した。


『何だ? その声…』


旦那様は、複雑な表情で俺を見つめた。


その時の表情が、俺が見た旦那様の最期の表情だった。


「大丈夫? 田中君」


「え?何がですか?」


普通に、陰で必死で覚えた唯一の持ち歌のカラオケ定番のバラードを歌い終えた俺に、志穂さんが話しかけてきた。


志穂さんが、俺を手招きして、そっと耳打ちした。


「無理して普通に振る舞ってるみたいだから」


―と。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫