《MUMEI》
要注意人物
(嘘だろ)


俺と志穂さんは、まだ出会って一時間しか経っていなかった。


その僅かな間に、志穂さんは俺の本質を見抜いたというのだろうか。


(いや…)


ちょっと変わったヤツと思っている程度かもしれない。


「何の事ですか?」


俺は、何気なく質問した。

「だから、頑張って、目立たないようにしてるのかなって…違ったら、ごめんなさい。

何となく、そう思ったの」

違うも何も、大正解だったのだが…


「違いますよ」


「ごめんなさい」


俺が否定すると、志穂さんは小さく謝った。


(見た目大人しいからって油断できないな)


志穂さんは、周囲が高山が医療の道に進むと思っていた時、唯一高山の望む進路を正確に言い当て、後押しした人物だったらしいから…


周囲の評価が普通でも、俺の中にある普通じゃない要素を敏感に感じとったのかもしれない。


(待てよ…)


俺は、そんな志穂さんが、仲村さんと屋代さんの関係に気付かないはずはないと思った。


(やっぱり、祐先輩と同じパターンか?)


気にはなったが、これ以上心を読まれたく無かった俺は、質問できなかった。


俺の中で志穂さんは要注意人物になっていた。

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