《MUMEI》

家に帰り…



音楽を聞きながら…
メイクを落としながら…
明日の“祭りの進行表”を見ながら…
ヨガのポーズをとってみる…。




“って私、バカ!?”




めちゃくちゃ動揺してるじゃん!!




私が、ももたを好き!?
あり得ない!あり得ない!つい数日前までサキさんとヨリを戻させようと、有給休暇まで使って、頑張ってたんじゃん!!




……………………。
まさか…私って……。
“人の男が欲しくなる魔性の女”だったの!?
………サイテー。
いやいや!落ち付け自分!“現在ももたとサキさんは別れている。”
………………ってことは
…って正確に言えば、私のせいで別れちゃったんだから、サイテーに変わりはないか……。




ヴーーッッ!!




“ももたは、私の事…どう思ってるのかな…?”




翌日─3月3日─




ドンドンドンドンッッ!




『咲良!!早よ起きっ!
祭り行くで〜!』




玄関のドアを叩く、けたたましい音で目が覚めた…。




前日準備が無かった為、私たち“実行委員”は朝早くから準備に追われた…。




『甘酒よ〜し!
ひなあられよ〜し!
風船よ〜し!
よっしゃ!完璧や!!
ほな、次は俺の店出すで!咲良!ダッシュや〜!!』




ももたは朝からやる気満々で走り回っている…。
…子供かよ。
なんて呆れながら、私も万更でもなく楽しんでる。




ももたと私は、実行委員の仕事と店番を交互にこなし、走り回っていた。




『咲良。大丈夫か?
疲れ切った顔してんで!
店も屋台風にすると結構売れんねんな〜!
今、やっと客もひいてきたから休憩して来いや!
午後からはイベントの司会もあるし、もっと忙しなんで〜!』




『え〜!…もうやだ。
朝からずっと走りっぱなしで疲れた〜。
ももたは良いよね!
お店儲かって…私は、何も良いことないじゃん!
あ〜もうやめた!!』




私は“雛祭り実行委員”と書かれた腕章を外した。




慌てたももたが、なだめにはいる。



『あ〜分かった分かった。そんな怒んなや…。
祭りが終ったら、ちゃんとお礼するから。
なっ!?最後まで頑張ってやろうや〜!!』


『…お礼って?』


『そりゃ〜。
咲良が何か考えとき!』


『…何でもいいの?』


『まぁ〜常識の範囲内で頼むでっ!』


『じゃ〜それ頂戴!!』




私は、さっきからずっと気になっていた“小さな箱”を指差した…。




『…これ!?
これはアカンわ…売りもんと違うねんっ!!』


『何で?売り物じゃないならいいじゃん。見せて!
それがいいの!!
ももたが、さっきからチラチラふた開けて、見てたの知ってんだからね!
常識の範囲内でしょ!?』


『…アカン。…これは
ほんまにアカン…。』


『何でよ!!
見るのもダメって、その箱に、そんなに大切な物が入ってるの…?』


『えっと…そやっ!死んだじいちゃんの形見や!!』


『ウソつき!
ももたのお爺ちゃん生きてんじゃんっ!!
こないだ、お裾分けしてくれた野菜…。
お爺ちゃんの手作りだって言ってたでしょ!?』


『…ん?そやったか?
それは…あの…
天国のじいちゃんが作ってくれたってこっちゃ!』


『…ももた。…あんた、
バチあたるよ…。』


『とにかく…
これはアカンっちゅうたらアカンねん!!
他のモンなら何でもええで違うの選びっ!
これは?…これは?』




ももたは、必死になって話題を変えながら、小さな箱を自分のバッグへと隠した…。

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